AI時代を支えるデータセンター ― 急拡大する市場と新たなリスク
AI時代を支えるデータセンター ― 急拡大する市場と新たなリスク
AI(人工知能)の急速な普及に伴い、世界中で大規模なデジタルインフラ投資が進んでいます。その中核を担うのが、AIやクラウドサービスを支えるデータセンターです。
Howdenは最新レポート「Insuring the data centre supercycle」において、世界の主要なデータセンターに関する独自の分析と公開情報をもとに、急速に拡大するデータセンター市場が直面するリスクと、保険・リスクマネジメントの役割について分析しています。
データセンター特有の「相互に関連するリスク」
データセンターのリスクは、立地、規模、施設の築年数、設計、電力インフラ、顧客構成、運営形態などによって大きく異なります。
また、一つの事故や事象が、財物損害だけでなく、賠償責任、サイバー、事業中断など複数の損失につながる可能性があります。
特にデータセンターは、高密度のコンピューティング設備を継続的に稼働させることで収益を生み出すため、一般的な商業施設と比較して、事業中断による影響が大きくなり得ることが特徴です。
Howdenのレポートでは、データセンターを取り巻くリスクを6つの領域に整理しています。それぞれのリスクは独立したものではなく、相互に関連していることもデータセンターの大きな特徴です。
1. 建設(Construction)― 6年間で全容量の約58%を建設
AIやクラウドサービスの急速な拡大を背景に、世界ではデータセンターの建設が急増しています。1990年以降に建設されたデータセンター容量の約58%が、2020年から2025年までのわずか6年間に供給されました。
こうした急速な建設拡大は、工事中の事故や物的損害だけでなく、完成遅延などのリスクも高めています。
2. 自然災害(Natural Catastrophes)― 米国のデータセンター面積の32%が重大な竜巻・雹を経験
Howdenの分析によると、米国で稼働するデータセンターの延床面積の32%が、過去10年間に重大な竜巻または雹の影響を受けています。さらに、被害を受けたデータセンター面積の約80%がわずか20の地域に集中しており、自然災害リスクの地理的な集中が浮き彫りになっています。
高額な資産が特定の地域に集中するデータセンターでは、個々の施設だけでなく、ポートフォリオ全体でリスクを把握することが重要となります。
3. 電力供給(Power Supply)― 2030年までに約10GWの自家発電設備
データセンターの急速な拡大は、電力インフラにも大きな影響を及ぼしています。
Howdenのレポートでは、2030年までに米国のデータセンターで使用されるBehind-the-meter(敷地内)の発電設備は約10GWに達し、セクター全体の電力需要の約4分の1に相当すると予測しています。
電力網の制約を背景に自家発電設備などの導入が進むことで、新たな設備資産が増える一方、設備の物的損害や電力供給停止に伴う事業中断など、新たなリスクへの対応も必要となります。
4. システム停止(Outage)― 大規模停止の45%は電力障害が原因
データセンターでは多重化やバックアップなどの対策が講じられていますが、発生頻度が低くても、一度の大規模なシステム停止が重大な経済的損失につながる可能性があります。
大規模なシステム停止の原因を見ると、電力障害が45%と最も多く、次いで冷却設備14%、ネットワーク11%、ITシステム9%となっています。
一方、こうした停止のうち、保険の対象となる物的損害に起因するものは一部にとどまります。これは、従来型の財物保険だけではカバーしきれない「プロテクション・ギャップ」が存在することを示しています。
5. サイバーおよび地政学的紛争(Cyber and Geopolitical Conflict)― デジタルインフラと地政学リスクの接近
サイバー攻撃に加え、地政学的な不安定化に伴う物理的な脅威も、データセンターにとって重要なリスクとなっています。
Howdenの分析では、2025年に紛争地域から10~15km以内に位置していたデータセンターの規模は、2020~2024年の5年間の累計の約60%に相当し、2015~2019年の累計と比較すると4倍に達しています。
物理的な損害が大規模なデジタル障害や事業中断につながる可能性もあることから、サイバー、財物、戦争リスクなど、複数の保険分野を横断してリスク評価することが重要になります。
6. 賠償責任(Liability)― 主要な訴訟・仲裁案件は2021年から3倍超に
データセンターの大型化やエネルギー消費の増加に伴い、開発計画、環境への影響、騒音、水使用、排出物などをめぐる法的リスクも拡大しています。Howdenの調査では、データセンターに関連する主要な訴訟・仲裁案件は2021年以降3倍以上に増加しています。 データセンターの大型化やエネルギー消費の増加、地域社会における存在感の高まりに伴い、法的リスクも拡大しています。
データセンターに関連する主要な訴訟・仲裁案件は、2021年の4件から2026年上半期には14件へと3倍以上に増加しました。
特に、開発計画やゾーニング、環境問題に加え、ディーゼル発電機からの排出、水使用、騒音、景観などをめぐる問題が増加しています。Howdenの分析では、こうした諸問題が、過去3年間における訴訟案件増加の78%を占めています。
従来の財物保険だけでは捉えきれないリスクへ
これらの数字からも、データセンターを取り巻くリスクが、単なる建物や設備の物的損害にとどまらないことが分かります。
現在は大規模な建設投資を背景に、建設リスクや自然災害リスクが重要なテーマとなっています。一方、Howdenは、市場の成熟とともに、今後は電力供給やシステム停止などのオペレーショナルリスクの重要性がさらに高まると分析しています。
一つの事故が、物的損害からシステム停止、事業中断、サイバー、さらには顧客からの賠償請求へと波及する可能性もあります。そのため、施設のライフサイクル全体を通じたリスクマネジメントと、複数のリスクを横断的に捉えたリスク移転の検討が重要となります。
Howdenのレポートでは、これら6つのリスク領域について、データセンター市場の成長とともに変化するリスク環境や、保険市場が果たす役割について詳しく分析しています。

データセンターのスーパーサイクルを支える保険
レポートの詳細は、Howden Group Holdingsの「Insuring the data centre supercycle」からダウンロード可能です。